2017年8月14日 00:57   カテゴリ: 片山和也の生産財マーケティングの視点     

    先日の日経新聞のコラムの中で、東京大学特任准教授の松尾豊氏が非常に興味深い持論を展開されていました。

    地球上の生物の大半は、46億年という長い歴史の中で、わずか5億4200万年から5億3000年までの極めて短い間(カンブリア紀)に出そろったそうです。

    その原因については諸説あるそうですが、古生物学者のアドンリュー・パーカー氏の説は、眼の誕生が原因とする「光スイッチ説」だそうです。

    それまでの生物には高度な眼がなく、ぶつかると食べる、ぶつかられると逃げるという緩慢な動作をするしかなかったそうです。

    ところが眼ができると捕食の確率が大きく上がる一方、逃げる側も見つかったら早く逃げる、見つからない様に隠れる、擬態するなど様々な戦略が生まれました。

    つまり眼の誕生により生物の生存戦略が多様化し、多くの種類に分かれていったというのです。これを「カンブリア爆発」といいます。

    松尾准教授は、人工知能(AI)のディープランニング(深層学習)という技術により、ここ数年、画像認識の精度が急激に上がったといいます。

    そしてこれは換言すればコンピュータに眼ができた、ということであり、今後、機械やロボットの世界でも「カンブリア爆発」が起きる、というのです。

     

    眼のもたらす情報量は圧倒的です。

    眼を持つ機械・ロボットは今後、新たなカテゴリーの産業として社会の中で使われ、既に機械化されたタスク(業務量)の少なくとも数倍以上が自動化・機械化されるとみられています。

    そしてその市場規模は今の機械・ロボット市場の比ではないほどに巨大になると同准教授は語っています。

    松尾准教授によると、眼をもつ機械・ロボットの市場として下記のものを挙げられています。

     

    ・介護施設や病院などでの見守り・介護

    ・医療(X線、CT、手術など)

    ・警備、防犯

    ・顔による認証・ログイン・広告、表情読み取り

    ・入国管理、警察業務、輸出入管理業務

    ・防災系(河川、火山、土砂崩れの見張り)

    ・重機系(掘削、楊重)、建設現場系(溶接、運搬など)

    ・農業系(収穫、選果、防除、摘花、摘果)

    ・自動操縦系(ドローン、小型運搬車、農機、建機)

    ・自動運転系、物流

    ・産業用ロボット系(組立加工など)

    ・調理系(外食全般)

    ・片付けロボット(家庭、オフィス、商業施設)

    ・新薬発見や新素材の開発

    ・廃炉系(深海や鉱山、宇宙も含めた極限環境)

     

    実際、機械の眼の「頭脳」にあたる、高速画像処理のGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)大手の米エヌビディアは、現在最も注目されている企業の1つです。

    かつてパソコンの時代はCPUの世界でインテルが世界の主導権を取りました。その後のスマホの時代はクアルコム。

    そしてAIの時代はエヌビディアです。

    同社は自動運転関連では完成車メーカーなど255社とパートナー契約を結んでいます。AIやロボットでもほとんどの企業や研究機関が同社のGPUを使用するという、ほぼ独占状態が続いています。

    エヌビディアは急成長を続けており、この5~7月期の決算では前年同期比で2.5倍もの純利益を出しています。

    ちなみに松尾准教授は、「AIの産業では、再投資の仕組みを最初につくったプレイヤーが瞬時に参入障壁を築き、独占的なポジションを得やすい」と言っています。

    医療画像を扱う医療機器や、産業用ロボットの世界では既にこうした動きが始まっている、と指摘していますが、GPUの世界であっというまに独占的な企業となったエヌビディアなども、同様の事例であると思います。

    また眼を持つ機械は「眼」の部分と「機械」の部分が必要です。

    「眼」の部分で視神経にあたるGPUは米国の独壇場かもしれませんが、「機械」にあたる部分は日本の“ものづくり”の技術的資産が極めて有効であり、眼を持つ機械は特に日本に向いていると松尾准教授は指摘しています。

    ただし前述の通り、AIの時代になると瞬時に「勝ち組」が決まる時代でもあるといえます。中小企業経営のポイントは、自ら「勝ち組」となるためには、まず「勝ち組」との取引をスタートすることであり、そうした意味でますますマーケティングの重要性が高まると私は考えています。

    ぜひ皆様におかれましても、新たな市場への「眼」ともなる、自社のマーケティング機能を強化していただきたいと思います。




    [前日の記事] «

    [翌日の記事]  »

    2017年8月6日 17:29   カテゴリ: 片山和也の生産財マーケティングの視点     

    この数週間、次世代自動車に関するニュースが世界を矢継ぎ早に流れました。例えば、

     

    ・フランス政府は2040年までにガソリン車およびディーゼル車の販売を禁止する。

    ・ボルボは2019年から全車種をEV/HV/PHV/MHVに切り替え。ガソリン車のみの販売を停止する。

    ・イギリス政府も2040年からガソリン車とディーゼル車の新規  販売を禁止する。

     

    と、いったニュースです。

     

    10年ほど前のドキュメンタリー映画で「誰が電気自動車を殺したか?」という作品があります。

    電気自動車ブームは今回が2回目です。1回目は1990年代半ばのカリフォルニア州でした。

    1990年、カリフォルニア州のZEV(Zero-Emission Vehicle regulations)規制をうけ、GMは電気自動車で初めての量産車となるEV-1の販売をスタートしました。

    「いよいよ電気自動車の時代が到来か!」ということで、トヨタも当時のRAV4をベースにしたEVを北米市場に投入、ホンダもEVの新モデルを発表しました。

    ところがEV-1は650台生産されたところで、急に「充電電線から発火する危険性がある」とされ、全車リコールされてスクラップにされました。

    その後、「EVは寒冷地では充電効率が50%も低下し、人命にかかわる」というネガティブニュースが流され、EV熱は一気に冷めてトヨタも電気自動車の現地生産から撤退。

    ちなみにトヨタがEVに出遅れたのは、この時の経験でEVを見切ったから、とも言われています。

    ドキュメンタリー映画「誰が電気自動車を殺したか?」では、この背景には国際石油資本と結託したビッグ3の既存勢力があり、こうした巨大資本がアメリカ政府に強力なロビー活動をしかけ、電気自動車つぶしを行った、と結論づけています。

     

    石油はアメリカにとっての巨大利権です。

    アメリカの通貨、ドルは別名「ペトロダラー(=意訳すれば石油のドル)」とも呼ばれます。理由はドルをもっていかないと、OPECは石油を売ってくれないからです。

    つまり金本位制の廃止されたドルショック以降、アメリカドルの価値の裏付けは「ドルがなければ石油を入手できない」ということです。

    余談ですが、イギリスもEUに加盟していますが(間もなく脱退しますが・・・)、通貨はポンドのままです。

    スウェーデンやデンマークもEUに加盟していますが、通貨はいずれも自国クローネのままです。

    その理由は、イギリスもスウェーデンもデンマークも北海油田という資源権益をもっているからです。

    通貨とは根本的に明確な価値の裏付けがあるものだということです。

    ドルに話を戻すと、そもそもイラク戦争の原因は、イラクがユーロでも石油を売る、と言い出したからだというのが一つの見方です。

    イランもアメリカを中心に経済制裁が加えられ続けていますが、イランもユーロで石油を売っています。

    ちなみにロシアも世界二位の原油生産国ですが、ロシアは自国通貨ルーブルではなく、ドルで石油を輸出しています。

    その理由は小麦を輸入に頼るロシアにとって、小麦を輸入するためのドルが必要だからです。

    この様にドルは石油のドルであり、石油を燃料として使うガソリン車は国際石油資本にとってもアメリカにとっても、大きな利権だったわけです。

     

    ではなぜ、今回、こうしたEV化の流れが欧州を中心に急遽進展しているのか?

    一言で言えば、アメリカの影響力が世界的に低下している、ということでしょう。

     

    また誰もが予測できなかった電池の技術革新もその背景にあります 。

    例えば半導体の世界にはムーアの法則と呼ばれる経験則があります。

    これは、半導体の実装密度は2年間で2倍になり、コストは2年間で半分になる、というものです。

    こうした技術革新のことを指数関数的イノベーションといいますが、指数関数というのは、ある段階で爆発的に増加を重ねていきます。

    そしてこのムーアの法則が、半導体だけでなく電池や太陽光発電セルにも適用できるのだそうです。

    その結果、電池の性能も20年前の1990年代半ばでは想像もできないレベルに現在は到達している、ということなのです。

    現在は世界的に指導者不在の状態で「G0の時代」と言われています。それから現在のイノベーションを支える「ムーアの法則」の電池への適用、この2つの要因が現在のEV・HV・PHV・MHV(=マイルドハイブリッド)・FCV(=燃料電池車)など、次世代自動車への流れとなっているのです。

    ちなみに水素ステーションなど、多大なインフラが必要とされるFCVは、バスやトラックなどパワーが必要な商用車での活用が想定されている、といいます。

    実際、現在でもタクシーの燃料はLNGであり、大型ディーゼルトラックには尿素ステーションで尿素を供給する必要があります。

    商用車と一般車のインフラは区別して考える必要があるのです。

     

    こうした中で、実際に市場でも変化が見られます。

    例えばオートマチックトランスミッションのトップメーカー、アイシンAWは先期決算が売上高1兆4311億円、営業利益は1230億円と、120%もの増益となっています。

    今やアイシンAWの売上の60%は、トヨタグループ以外の売上であり、メイン顧客の1社は欧州のフォルクスワーゲンなどです。

    同社には欧州を始めとする世界中のカーメーカーから、つくりきれないほどのオートマチックトランスミッションの引合いがきている、といいます。

    この動きをどう見るのかによって、今後の判断が変わると思います。

    内燃機関メインの自動車にとって、オートマチックトランスミッションはエンジンよりも単価が高い重要部品です。

    従ってエンジンと同じくらい開発にコストと工数がかかります。

    さらにEVが主流になった時に、真っ先に要らなくなるのがオートマチックトランスミッションです。

    今後、EVが主流の世の中になるのに、これから無くなるかもしれないオートマチックトランスミッションを自社で開発する必要があるのか?あるいはそこに、経営資源を投入することそのものがリスクになるのではないか?

    こうした判断で、フォルクスワーゲンなど欧州のカーメーカーがオートマチックトランスミッションの自社開発を見合わせている可能性もあります。

    そう考えると現在の活況は、5年後あるいは10年後の大きなリスクになる可能性があります。あるいはそれは3年後かもしれません。

     

    いずれにせよ、世の中が大きく変化しようとしています。

    言うまでもなく自動車産業の裾野は非常に広く、製造業マーケットの6割近くは自動車産業とその関連産業が占めています。

    それは現在の内燃機関主流の時代も、これからの次世代自動車の時代も変わりません。

    ただし、そのプレイヤーの中身は大きく入れ替わることでしょう。

    従って、これから新たにこの次世代自動車産業に参入を図りたいサプライヤーにとっては、これからしばらくは大きなチャンス到来となるでしょう。

    逆に、従来型の内燃機関自動車産業に携わっている既存サプライヤーにとっては、この大変革の時代にいかに対応していくかが事業継続の大きな分かれ目になるでしょう。

    そこで、船井総合研究所では来る9月7日(木曜日)、東京会場にて『機械加工業 次世代自動車業界「参入」セミナー』を企画いたしました。

     

    本セミナーでは次世代自動車産業で必要とされる技術を、

    ・車載部品

    ・部品生産用設備・設備部品

    ・生産技術

    に大きく区分し、そこで必要とされる要素技術やニーズ収集、コネクションのつくり方まで、多数の成功事例を交えながらわかりやすく次世代自動車産業への参入のポイントについて、お伝えしたいと思っています。

    特別ゲスト講師には三重県津市の機械加工業(従業員45名)株式会社中川製作所 代表取締役社長 中川 雅弘様をお迎えしています。

    もちろん、私 片山和也も本セミナーに登壇いたします。

    詳しくは下記セミナーのお知らせをご覧ください。

     

    執筆:船井総合研究所 グループマネージャー 上席コンサルタント

    片山 和也

    ---------------------------------

    [セミナーのお知らせ]

     

    機械加工業 次世代自動車業界「参入」セミナーのお知らせ

     

    急速なEVシフト、そしてケイレツ崩壊…

    「旧」自動車業界は激変も、新プレイヤーの参入により部品加工業には大きなチャンスが到来!

    最後の「大規模×成長マーケット」に乗り遅れるな!!

     

     

    ■日時・会場

    2017年9月7日(木) 13:00~17:00(受付12:30~)

    (株)船井総合研究所 東京本社

    〒100-0005 東京都千代田区丸の内1丁目6番6号 日本生命丸の内ビル21階

    JR東京駅丸の内北口より徒歩1分

     

    ↓↓↓本セミナーの詳細・お申し込みはこちらから!

    http://www.funaisoken.co.jp/seminar/022216.html

     

    EVの急速普及で、ガソリン車など内燃機関自動車の生産台数は大幅減。

     

    反面、次世代自動車は台数増加とともに、部品加工業にとって新たな需要が大幅に増加。さらに新技術の採用で自動車のプレイヤーも総入れ替え!

     

    国内市場「最大」かつ「最後」のマーケットである次世代自動車の「ココ」を攻めろ!

     

     

    ■内容・プログラム

     

    【第1講座】大激変する 自動車業界の勢力図 と 部品加工におけるニーズ

    •  衰退?それとも躍進?内燃機関自動車の激減によって日本の自動車産業はどうなるのか?
    •  今が参入のチャンス!次世代自動車の台頭により、メインプレイヤーは自動車メーカーから部品・装置メーカーへ
    •  次世代自動車は新需要の宝庫!求められる部品加工業の「技術力」と「提案力」にどう対応していくのか?

    <講師> 株式会社 船井総合研究所 ファクトリービジネスグループ

    チームリーダー チーフ経営コンサルタント

    中小企業診断士 高野 雄輔

     

    【第2講座】 次世代自動車産業に新規参入を果たした、株式会社中川製作所の取り組み

    •  自動車向けの旋盤加工をただこなす日々に考え、決断したこと
    •  自身の経験から語る、自社の強みを見つけ、それを伸ばす方法
    •  次世代自動車などの新規顧客・業界を開拓することに成功した、

    とっておきの秘訣

    <講師> 株式会社中川製作所 代表取締役社長 中川 雅弘氏

     

    【第3講座】次世代自動車産業にはこうして参入せよ!部品加工業が狙った成長産業を開拓し、参入する為のノウハウ大公開

    •  新市場・成長マーケットへの新規参入を果たした、部品加工業の成功事例10連発!
    •  自社の強みを発見し、それを活かした事業戦略を構築する5つのステップ
    •  毎月1 ~ 2件の新規顧客を開拓し続ける、PULL型マーケティング構築のポイント

    <講師> 株式会社 船井総合研究所 ファクトリービジネスグループ

    チームリーダー チーフ経営コンサルタント

    中小企業診断士 高野 雄輔

     

    【第4講座】 本日のまとめ あなたの会社の未来のために すぐに取り組んで欲しいこと

    <講師>株式会社 船井総合研究所 ファクトリービジネスグループ

    グループマネージャー 上席コンサルタント 片山 和也

     

     

    ↓↓↓本セミナーの詳細・お申し込みはこちら

    http://www.funaisoken.co.jp/seminar/022216.html

     

     

    ■日時・会場

    2017年9月7日(木) 13:00~17:00(受付12:30~)

    (株)船井総合研究所 東京本社

    〒100-0005 東京都千代田区丸の内1丁目6番6号 日本生命丸の内ビル21階

    JR東京駅丸の内北口より徒歩1分

     

     

    ■参加料金(税抜)

    一般企業様 30,000円 (税込 32,400円)/ 一名様

    会員企業様 24,000円 (税込 25,920円)/ 一名様

     

    ↓↓↓本セミナーの詳細・お申し込みはこちら

    http://www.funaisoken.co.jp/seminar/022216.html




    [前日の記事] «

    [翌日の記事]  »

    2017年7月31日 03:59   カテゴリ: 片山和也の生産財マーケティングの視点     

    現在、スマートフォンの普及に伴うIoTなど関連サービスの普及、自動車のIT化・AI化に伴うセンサーや電子部品需要の増加の結果、「微細加工」のニーズが世の中全体で高まっています。

    「微細加工」というのは、例えば直径0.1mm未満のドリルなどで穴あけ加工や、エンドミルといわれる工具で形状加工を行う技術です。

    ちなみに、髪の毛の直径が0.4mmであり、人の肉眼で形状の確認ができる限界が0.3mmまでと言われていますから、この直径0.1mm未満というのがいかに微細な数値であるかがよくわかります。

    そして微細加工で多用される小径エンドミルの専門メーカーに日進工具株式会社というメーカーがあります。

    同業の業界最大手メーカーが、ここ3年間で売上を105%伸ばしているのに対して、日進工具はこの3年間で売上を120%伸ばしています。営業利益率も22.8%と非常に高い水準で、これも業界最大手を大きく上回っています。

    同社のつくる世界最小径のドリル・エンドミルは、なんと直径0.01mmです。

    ドイツの展示会に展示したところ、ドイツのエンジニアから「数値を一桁間違えているぞ」と指摘され、いや本当に0.01mmだ、と顕微鏡で実物を見せたところ、相手は腰を抜かして驚いた、という逸話があるくらいです。

    そうした日進工具の微細工具へのチャレンジは、必ずしも順風満帆のうちに進められたものではありませんでした。

    バブル崩壊後の大不況で売上が減少したところに加えて、当時最新鋭だった藤沢工場が火災で全焼してしまいました。その結果、同社は債務超過状態に陥ります。

    こうしたピンチの中、同社はライバルが手がけようとしない小径の切削工具に活路を見出し、ニッチトップを目指してこの分野に注力することを決意します。

    普通は大きなサイズの切削工具ほど儲かります。

    逆に手間がかかり技術的にも困難な小径工具の分野は、まさに儲からない分野です。しかし大手と同じ分野で競っていても価格競争に陥り、負けてしまいます。

    そこで同社は微細な切削工具を製造るための工具研削盤を自ら内製するなど、「儲からない」と言われた小径工具の世界で高収益化を目指して努力し続けました。

    その後、同社は「微細加工」需要の波にのって発展し、もともと下町の町工場にすぎなかった同社は、現在は東証二部に上場する優良企業となっています。

    現在は注目を集めるニッチトップ高収益企業が、実はそうなるきかっけは工場の全焼と債務超過でした。

    まさにピンチはチャンス、といえる事例だと思います。




    [前日の記事] «

    [翌日の記事]  »